コンシェルジュノート

2016/05/10 再建屋 道元

第74話 『定例の支配人会議』

伊藤社長が上座に座り、ロの字を囲んで千島支配人とB店の水戸支配人、C店の戸
高支配人、D店の塩崎支配人、そして道元が座っていた。

「おい、水戸君。こんな成績じゃ駄目なんだよ。稼働率は計画比マイナス5%も
あるじゃないか。どうしてなんだ。」

「社長、大変申し訳ありません。一番の競合店であるTホテルが価格攻勢をかけ
てきまして苦戦しております。また、冷蔵庫内ドリンクフリープランも圧倒的な
低価格で提供しておりまして、ちょっと太刀打ちできない状況でして。支配人と
しては、非常にだらしないことと分かってはいるのですが。」

水戸は本当に申し訳なさそうにうつむき加減で、平身低頭の様だった。日頃は明
るく、冗談を飛ばすなどムードメーカー役だけに、いつも重くなりがちな会議の
空気は更に重くなっているようであった。

千島は幅広く友人を作るタイプでは無く、気に入った人としかつきあわない質で
あった。自分でもそれをよしとしていた。そのため、人からは何を考えているの
か分からない人物のように捉えられることが多かった。しかし、水戸は裏表も無
くざっくばらんに話が出来るため、比較的話しやすい人であった。千島は、水戸
を一瞥して手元の資料を見ていた。

「Tホテルが提供しているサービスと価格を列挙して、それとB店のサービスや価
格と比較してみてくれたまえ。どこが劣っていて、どこが勝っているのか、きっ
ちりと分析をしてくれないか。」

伊藤社長は先ほどの叱責から一転していつものように淡々と合理的な考えに戻っ
ているようであった。伊藤はホテル以外にも飲食店や温浴施設なども経営してお
り、この地域では比較的有名な不動産屋さんとして見られていた。一般的な不動
産屋さんと違って一発狙いの蛇のようなしつこさで仕事を追いかけるというより
も、淡々と合理的に物事を積み上げて一つ一つ冷静にこなしていくタイプであっ
た。そのため、現場の細かい点については支配人に任せて、客観的に判断できる
数値を基準に物事を捉える傾向が強かった。

毎月1回行われている支配人会議が終わりそうなころ、様子を見ていた道元が口
を開いた。

「伊藤社長と各支配人にお伺いしたいのですが、どうして当社のADRは他社と比
較して低いのでしょうか。」

「先ほど水戸も申し上げたように、どの店舗も競争が激しい、この一点に尽きます。
ひいき目に見て設備面では確かに他社に比較して優位性は若干あるかもしれない。
しかし、それ以外はすべて競合に負けているからですよ。」

伊藤社長は、何を分かりきったことを言っているのかと怪訝な顔をして、そう言
い残してさっさと席を立って出て行った。