コンシェルジュノート

2011/04/12 再建屋 道元

第1話「ホテル旅館再生請負人、道元」

 ここ伊勢志摩は風光明媚なところだ。

 志摩市周辺の海岸部は、リアス式海岸と海食大地が大きな特徴となっており、英虞湾を中心に多島海景観が楽しめる。戦後の復興期においては、リアス式海岸を守っていこうという気運が高まり、昭和21年、国内初めての国立公園として、志摩一帯が伊勢志摩国立公園に指定された。また、灯台や展望台が多く、海岸に映える朝日や夕日といった自然環境が美しい街で、自然景観を写生するために多くの画家が訪れている。

更に、飛鳥時代、奈良時代から志摩国として天皇と伊勢神宮に食材を献上する「美し国(うましくに)」「御食つ国(みけつくに)」としてこの辺りは、漁業が盛んであった。それほどに美味な魚介類が豊富にとれるエリアでもある。

 

リアス式海岸に点在する島を眺めながら、櫻井道元はこの地に入ることになった経緯を思い出していた。

 

「櫻井さん、いや道元さん。ぜひお願いしたい。道元さんでなければこのホテルは立ち直れないんだ。せっかく我が社がつぶれそうになっていたホテルを買い取ったのに、従業員の連中と言ったら我々に対して反発心しかない。私は、地元にこのようなリゾートホテルは必要だと、外資や大手資本ではなく、地元資本によるリゾートホテルが必要だと、それが地域のためにもなるんだと。そう信じているのに、彼らはなかなか理解してくれない。このままでは、赤字垂れ流しで、いつまでうちももつか分からん。」

リゾートホテルを買収した、このエリアでは有名な安乗興業の池田社長は、レジェンドコーンパイプを灰皿にコンコンと叩きつけながら話した。

道元は、苛立ちの隠せない池田社長を真正面から見つめていた。

「社長は、この買収が地域のためになると信じているんですね。」

「もちろんだ。しかし、理想ばかり言ってもビジネスにはならん。だから手を貸して欲しいんだよ。」

しばらく、うつむきながらあごに少しだけ伸びた短い髭をいじりながら、

「分かりました。お受けしましょう。」と短く答えた。

 

「さあ、これからまた始まる。」

小さく自分に言い聞かせるようにつぶやきながら、海を後にした。

 

つづく