コンシェルジュノート

2016/07/12 コンサルタントコラム

【ホテル・旅館】きらりと光る売店を目指して 第3回: すぐ取り組める売場改善(ソフト面)

第2回目のコラムで例題を出しました。
あなたは温泉旅館売店の店長です。山間部に立地する当旅館は50室の客室を有し、
眺望が素晴らしく山の幸が豊富。季節ごとに趣向を凝らした料理長の会席料理は
評判がよく、60歳以上の年配客や家族連れを中心に賑わっています。客室から大
浴場、食事処へ行くにはロビーを横切るため、ロビーに立地するあなたの売店は、
お風呂や食事前後に多くのお客様が訪れます。売店には、旅館自慢の温泉饅頭、
煎餅、洋焼き菓子、乾麺などの手土産品、名物の漬物(朝食で提供している)、
県内産を中心とした地酒、石けん・シャンプー(大浴場で提供)、郷土玩具、
キャラクターグッズなどが並んでいます。

さて、あなたは売上をもっとアップさせようと売場改善を考えています。レイア
ウト、照明、棚割りについてどのように改善を進めていけばよいでしょうか。

売上を伸ばすためには客数か客単価を増やす必要があり、客単価を増やすために
は (1)動線の長さ、(2)立寄率、(3)視認率、(4)買上率、(5)個数を高める施策が
必要です。あなたの売店で考えられる施策を、(1)から(5)の要素ごとに考えて行
きましょう。

(1) 動線の長さ
第一にできるだけ多くの宿泊客に売店に立ち寄ってもらわなくてはなりませ
ん。そのためには売場前面にアイキャッチが必要です。旅館自慢の温泉饅頭
を並べてみましょう。平台、投げ込み台、テーブルなどを使ってボリューム
たっぷりに。照明も必須です。スポットも準備して遠くからでも目立つよう
にします。「例の温泉饅頭だ!」と宿泊客に思わせます。そして、ロビーか
ら売場全体が見渡せるように棚をレイアウトします。ポイントは、売場全体
を見渡せるようにすること。奥に向かって段々と陳列が高くなっていくのが
理想です。「何かいろいろ並んでいるぞ」と思わせることが大事で、宿泊客
を売場へ向かわせるための演出です。この2つで売店に足を向けさせます。
なお、有名ディスカウントのように天井近くまで陳列する方法も考えられま
すが、商品崩れ防止、最適な雑然さなど一定のノウハウが必要であり、旅館
の売店には少しハードルが高いと思われます。

次に、宿泊客(以降は「来店客」と呼びます)にはたくさん売場を回っても
らいます。そのために重要なのは、関心の高い商品の配置です。来店客の関
心の高い商品を店の中央(店央)、店の奥(店奥)へ配置していきます。で
は、関心の高い商品はどのように選ぶのか。POSデータと観察で選びます。
販売数量の多い商品は関心の高い商品と考えて良さそうです。しかしPOSだ
けでは把握できないことは観察で補います。POS=販売情報ですから、売れ
なかった分の情報は含まれておりません。したがって、売れなかった商品が
来店客にまったく相手にされなかったのか、十分吟味してもらったけど残念
ながら選ばれなかったのかはPOSでは不明です。「売れる」と「売れない」
の間に水面をイメージすると、POSは水面より上の部分は把握できますが、
水面下の情報はわかりません。売れない商品であっても、実は来店客の多く
が関心を示す商品も含まれているかもしれません。
そんな商品を見つけるために来店客を観察します。

(2) 立寄率
次に、できるだけ棚に立ち寄ってもらいます。そのためには、「面白そうな
商品が並んでいる」と来店客に思わせる仕掛けが必要です。例えば、シャン
プー・トリートメント・石けんなどが並んでいる棚。年配女性の多くが関心
を示しそうです。確実に立ち寄ってもらうために、バス用品の特長をポスタ
ーにまとめてみます。まず文字はどうしますか。年配者の一般的特徴は、小
さい文字は読みづらい、色彩の微妙な違いを認識しづらい(青と緑の区別、
黄色の認識がしづらい)ことが挙げられます。したがって、できれば文字の
大きさは12P以上、無難な黒、白、赤を中心とした色使いを検討する必要が
あります。読みづらい、認識しづらい、の先には「読みたくない」が待って
います。せっかく良い情報が書いてあっても、読んでもらえないのでは意味
がありません。また、ポスターの掲示場所はどうしますか。通路を歩く来店
客から見やすくするためにはどうしたらよいでしょうか。
通路に対して水平に掲示する方法も考えられますが、来店客はポスターを見
るために首を棚へ向けなくてはなりません。しかし、通路に対して垂直に掲
示すると来店客は歩きながら自然にポスターが視界に入ってきます。このよ
うに、施策を実施する際は、ヒトとしての身体的特徴、人間としての心理的
側面を考慮していきます。

(3) 視認率
棚に立ち寄ってもらったら、シャンプー・トリートメントといった個別商品
をみてもらいましょう。POPを用意します。ポスター同様、文字の大きさと
色使いは年配者を意識します。陳列は手に取ってもらいやすいように1m前後
の高さにしてみます。いわゆるゴールデンゾーンです。来店客が無理なく商
品に手を伸ばせる高さですが、年配者にとっては特に重要な意味があります。
年配者にとって腰をかがめることは苦痛です。したがって、低い位置に手を
伸ばしたくない。これも年配者の身体的特徴が関係してきます。

(4) 買上率
いよいよ商品を買ってもらうタイミングです。今、シャンプーを手に取りな
がら買おうかどうか迷っている年配女性がいるとします。どうやらご夫婦で
売店を訪れたようで、夫も店内にいます。しかし、夫はなんとなく落ち着き
がなく、シャンプーを手に持って悩んでいる妻の後ろ姿をちらちら見ながら、
通路を歩き回っています。やがて、「おい、行くぞ」。妻は残念そうにシャ
ンプーを棚に戻し、二人はロビーの方へ歩いて行ってしまいました。これは、
買い物に対する男性と女性の心理が影響しています。一般的に女性は買物が
好きです。もっと言えば、買物のプロセス自体が好きです。商品をよく眺め
ます。販売員と話をし、試してみるのも大好きです。そして、購買意思を固
めるためには、静かに品定めやイメージを膨らませるための時間と空間が必
要です。一方、一般的に男性は買物が嫌いです。店内に入ると、欲しい商品
の棚へわき目もふらず向かいます。販売員への質問も嫌い。必要な情報は自
分で調べて収集します。
したがって、女性は男性と買物が一緒だと、買物時間が短くなる傾向があり
ます。せっかく購買意思を固めるプロセスまでたどり着いたのに、夫の邪魔
で買上に至らなかったのでは悔やんでも悔やみきれません。この場合、「男
性連れ」の女性来店客への対処法が必要です。スポーツ番組、新聞各紙を用
意した休憩スペースを店内に設けるのもその一つです。要は、長時間店内に
いても男性が苦痛にならないような工夫をすればよいのです。

(5) 個数
できるだけ多くの買上個数を実現するためには、例えばカゴが考えられます。
人間が手で持てる量は限られています。名物の漬物を買おうと思っても、す
でに温泉饅頭とシャンプーを手に持っているので、「もう漬物は持てない、
面倒くさいから今回はこれだけでいい」。案外簡単に決まってしまいます。
売店入口にカゴを置いてあるから、来店客は取りに戻るのではないかと考え
るかもしれません。しかし、ほとんどの来店客はそのような行動はしないと
思った方がいい。では、店内のあちこちにカゴを準備していたら?一般的に
は、買上個数が増えます。「手は2本しかない」というヒトの身体的特徴を
無視して個数を増やすことはできないのです。

以上のように、私たちの売店の売上をアップさせるための施策を、ヒトとしての
身体的特徴、心理的側面を意識しながら考えてみました。もちろん、今回挙げさ
せていただいたのは一部であり、他にも様々な施策が考えられます。皆様の現場
でも、きらりと光る売店を目指して、継続的に取り組んでいただければと思いま
す。