第76話 『人事考課』
(株)セントラルホテルチェーンは、毎年5月度に恒例の人事考課がある。当社の
人事考課は明確であった。本部部門を除くと支配人とマネージャーが管理職の職
位にあり、それ以下アシスタントマネージャー、チーフ、一般社員と続く。そし
て、それぞれの職位に対して毎年会社が設定する目標、この目標は行動特性に基
づくコンピテンシーと数値目標の2側面がある。職位が上位になるほど数値目標
が評価項目に占める割合が大きくなっていた。
例えば、支配人であればコンピテンシーは成果志向とマネジメントに限られてお
り、例えばマネジメントにおいて期待される行動特性は下記のようなものである。
会社の経営理念やビジョン、ミッションを部下達と共有し、自部門の目標達成に
向けて成果について話し合ったか、そして
(1) 業務内容やその業務に要求される技能と経験や役割の分担内容を整理して把
握したか
(2) 部門目標は必ず達成するという強い意思を持ち、自らその実行態度を示すと
共に、部下の達成意識を継続させ高揚させたか
(3) 職務権限を許される範囲で部下に委譲し、部下の主体性を尊重したか
(4) 部下全員とのコミュニケーションを絶やさず行ったか
(5) 個人的感情は捨て、仕事の成果の事実、目標達成へのプロセスを記憶に頼ら
ず記録に基づいて評価したか
これらの期待される行動がどれほど発揮できたかを支配人の場合は社長と支配人、
マネージャーによる360度評価で決められる。
また、定量的な目標は次のような数値目標に対する達成率で図られる。宿泊人数、
客単価、客室稼働率、ADR、Rev.PAR、GOP、人時売上高、リピーター率、広告宣
伝費、自社ホームページのコンバージェント率、アンケート評価点などである。
これらの数値目標の達成率の平均が支配人の当期の評価点になる仕組みである。
そして、最終的にコンピテンシー評価と定量評価を組み合わせて各従業員の評価
点が算出される。
この評価点によって次期基本給が設定され、ある一定レベルを超えた場合には昇
格の対象になるといった非常に分かりやすい人事考課のシステムであった。誰か
ら見てもある程度の公明性と公平性が担保されていた。
当社は社長の考え方が人事考課のシステムにも反映されている。社長の考え方は
シンプルに表現するとぶれない数値で物事を判断するというものであった。その
ため、ホテル経営の背景にある人間性や想いなどは人によって評価や判断がぶれ
るため採用しないという非常に分かりやすいものであった。
顧客評価の面から見たときにはアンケート評価点から見ていることになっている
が、アンケート評価点というものは評価項目が決まっているため、その項目から
顧客の要望に応える面が強く出てしまうという欠点もある。しかし、伊藤社長は、
それはそれで仕方ないとして割り切って考えているのであった。