コンシェルジュノート

2014/05/13 再建屋 道元

第五十二話 「オーナーチェンジ」

「・・・来月から当ホテルのオーナー会社は、地元のIT企業として有名なネットエージェン
シーさんに変更になります。これまでのファンド会社から地元の会社に移るわけです。
ネットエージェンシーの社長からは、経営方針や営業方針は変えずに、これまで通り我々
が中心になってしっかりやってほしいとの言葉を頂いています。
 ですから、我々とすれば、これまでと変わりなく運営していきます。現在進行中のプロ
ジェクトチームの活動も続けていきますし、オペレーション上は何も変わりませんので、
安心して下さい。
 もちろん、皆さんの待遇なども一切変更ありません。」

 道元はファンド会社から脱却するためにメインバンク含めて激しい動きがあったことな
ど触れずに淡々と幹部を前に話していた。

 幹部の中にはまたオーナーチェンジかというあきらめの顔をしている人間も少しいたが、
ほとんどは道元の言葉に安堵の表情を浮かべていた。
 この業界はオーナーチェンジは日常茶飯事で行われている。そのため、オーナーチェン
ジ自体は従業員としてもなれている人が多いが、やはり気になるのは自身の待遇である。
これまでもらっていた給与が下がるのかどうかである。

 ただ一人、苦虫を噛みつぶしたような顔で下を向いている従業員がいた。佐郷和典であ
る。当ホテルの先代社長の息子であり、営業担当者である和典は、去っていったファンド
にそそのかされ道元の後釜として社長になるはずであったのだ。道元の話が終わるやいな
や、すぐさま下を向いたまま和典は会議室を出て行った。

 和典は、ホテルの裏口から出て少し離れた公園まで歩いた。そこのブランコに乗り空を
仰いだ。
「そうなんだよな。俺は最初から誰にも相手にされなかったんだよな。」
 一人呟いた。

 そもそも単なる一営業スタッフである自分が、先代社長の息子であると言うだけで道元
社長の後釜に座るなんて、無理な話だったんだ。普通の会社だったらそれでもよかったか
もしれない。でもこのホテルは一度つぶれたんだ。金融機関やファンド等外部の人間の関
与が高まっている中で、単に先代の社長の息子だからという理由だけで社長になるなんて
あり得ないんだ。もし自分が社長になったって、ホテル経営の舵取りなんてとても、ムリ
なんだ――。

 和典は自分の世間知らずの馬鹿さ加減にあきれながらも、状況がいまひとつ飲み込めて
いないもどかしさを感じていた。

..つづく

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【前作】小説:それでもホテルは生き続ける (全24話)

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