コンシェルジュノート

2011/10/11 再建屋 道元

第十四話「旅立ち」

 「・・・。と言うわけで、私は今月いっぱいで社長を退任することになりました。今まで、皆さんに良くして頂いて感謝しています。」

 いつものミーティングの最後に、道元が唐突に話し始めた。

 さあ、これから今日もお客様をおもてなししようと、新しい一日のスタートを切るミーティングだったが、道元の言葉が参加している部門長やリーダーには良く理解できないようだった。

 「退任って、どういうことですか。お辞めになると言うことでしょうか。」

 ようやく、フロントのリーダーがぽつりと問いかけた。

 「ええ、そういうことです。」

 「今、道元社長に抜けられると私達はどうなるんですか。何となく雰囲気も良くなってきて、ホテルの仕事がまた好きになってきたのに・・・。このタイミングでお辞めになるなんて、私は理解できません。」

 

 一昔前ならば、自分の意見を明確に発言することすら無かった。自分の意見は決して言うもんじゃない。言ってもムダなんだから。だったら、何も言わず今日一日過ごす方がよい。ただ、目の前のお客様だけを見ていれば良い。他部門の連中が何をやっているのかなんて知ったこっちゃない。知ってもムダなんだから。自分さえきちんと仕事をしていれば良い。

 俺だけじゃなく、ここに居るみんなもそう思っていたんだ。

 でも、今はもう違う。こうやって、みんなが意見を言えるようになったし、自分のホテルのこともよく分かっている。自分たちは、どうすれば良いか分からなくても、仲間と一緒に考えていけばいいんだ。

 「みんな、道元さんは、ここを発つだけなんだ。決して我々を捨てていくわけじゃない。俺たちは、みんなと一緒に考えていけば、何とかやっていけるんじゃないのか。道元さんが居なくても、みんなと一緒に考えていけば・・・。」

 長瀬営業支配人は、周りにいる部門長やリーダーを見渡しながら、一言一言かみしめるように話し始めた。

 

 道元は、朝日がまぶしい英虞湾を背に、ホテルを眺めていた。

 「みなさん、本当にありがとう。」

                            つづく