第十三話「変化し続ける力」
「道元さん。本当に退任されるんですか。我々は、まだ道元さんが居ないとだめなんです。まだ教えてもらうことがたくさんあるんです。」
長瀬営業支配人が、道元に詰め寄っていた。
数日前、長瀬営業支配人は、新規顧客開拓のためオーナーの池田社長の人脈から見込み客を紹介してもらおうと安乗興業を訪れていた。
「長瀬君。最近どうだね、ホテルの調子は。」
池田社長は、いつものレジェンドコーンパイプを加えながら話し始めた。
「ええ、一昔前に比べたら同じホテルとは思えないぐらい変わったと思います。スタッフの顔は明るくなりましたし、部門間の連携も強いものになっています。また、数字の面でも売上は計画比110%を維持しており、GOPも売上対比で18%を超えています。周辺の館(やかた)に比較しても引けを取らないと思います。毎月キャッシュも増えている状況ですし。社内の体質が変わって、それが数字にも繋がってきたなという印象を受けています。」
咥えていたパイプの火は、とっくに消えていた。池田社長は目を見開いたまま、長瀬営業支配人を見ていた。
「そうか、そうだったんだな。」
池田社長は小さくつぶやいた。
「池田社長、どうされたんですか。」
「いや・・・。実は先日、道元社長が見えられてね。もう私の役目は終わったので、そろそろお暇したいという申し出があったんだよ。せっかくホテルの経営状態も良くなってきて、これからだと言うときにどうしてなんだと強く引き止めたんだが、彼は全く耳を貸さなくてな。」
「えっ、道元さんが退任される・・・。」
「しかし、君の話を聞いていて少し分かった気がしたよ。君は、自分の言葉で自分のホテルを話していた。そして、ホテルの経営状況もすっかり頭に入っとる。恐らく他の幹部連中もそうなんだろう。もうすでに、君たちは自分の足で立つことを覚えたんだな。」
長瀬支配人は、呆然とした顔をして、池田社長の話など全く聞いていないようだった。
つづく