コンシェルジュノート

2010/08/03 コンサルタントコラム

所有と経営、運営の分離は、再生と承継に効果あり③

さて、これまでの説明でホテル・旅館における所有・経営・運営の分離の仕方による経営方式の違いがお分かりになったと思う。そもそも所有・経営・運営はどのような役目を持っているのか、またそれらが企業再生や企業承継にどのように効果的に機能するのか。これらについて説明していきたい。

 所有・経営・運営の機能については、それぞれの当事者間の契約、ステイクホルダーの力関係、外部環境、ホテル投資マーケットの市況などによって様々ある。ホテルの数分だけ契約形態が異なると言っても過言ではないぐらいである。次の図は、一般的な機能を示している。

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これは、リース方式で所有・経営・運営それぞれが別会社であるという前提である。この場合の所有会社は、ホテル・旅館の土地や建物、設備、備品などを投資し所有している。(場合によっては、スケルトン貸しで内装からFF&Eなどは経営会社が投資する場合もある。)所有会社の収入は、経営会社からの賃料である。この賃料の考え方も、固定賃料であるか売上歩合の変動賃料であるか、売上とGOPに関係づけられた変動賃料なのか、いろいろな考え方がある。とにもかくにも、所有会社の売上げは賃料であり、不動産を保有するためにかかる経費、償却費、租税公課、保険料などを負担する。この賃料から不動産保有経費を引いたものがNOI(キャッシュフロー)となる。これから、所有会社はホテル・旅館の資産価値を向上させるための資本的支出にかかる積立金を確保しておかなければならない。これは、大規模修繕、集客力を向上させるためのリノベーションやCapExのための費用となる。この積立金を除いたキャッシュフローがNCF(フリーキャッシュフロー)となる。この資本的支出の取扱いが所有会社と経営・運営会社との間でトラブルとなりがちな要因の一つとなることが多いのである。所有者にとっては出来るだけ不動産の維持にかかるコストは抑えたいと考える。一方、経営・運営会社は施設の継続的なリノベーションやCapExを図ることで魅力の向上を図り、集客力の向上や改善を図りたいと考える。お互いが逆の方向で物事を考えてしまうのである。しかし、逆に考えるとこの利益相反する姿勢がそれぞれに緊張感を生み出し、投資効率の高い投資や経営効率の高い経営を行うために必要となるのである。賃料も同様である。所有会社から見れば出来るだけ賃料が欲しい。しかし、経営・運営会社から見れば出来るだけ賃料は抑えたい。この緊張関係が所有、経営、運営の分離スキームに規律を生み出すのである。

 つづく