第83話 『言い訳しない組織』
河南フロントマネージャーは、チェックアウト後の空き時間を使ってホテルシステムでルームアサインの作業を手際よく行っていた。ビジネスホテルにとってまとまった時間の取れる貴重な時間帯であった。この時間帯を逃してしまうと集中して作業をこなすことが出来なくなってしまう。そのため、この時間帯においては余計なことは考えずに作業に集中することだけを考えていた。今まではそうであった。しかし、最近はこの時間帯の活用が違ってきていた。
まずは、定期的な支配人との面談。3ヶ月に一度千島支配人とスタッフとの面談の機会が設けられていた。一年間の各自が立てた目標の進捗の共有と支配人からアドバイス、自身が仕事をする上で困っていることや悩んでいることなどがざっくばらんと話された。一人あたり30分程度の短い時間であるが、これまでこのような機会が無かったため、スタッフにとっては支配人と直接いろいろな話が出来る良い時間となっていた。
また、売上増加、顧客満足向上、オペレーション効率化、経費削減などのテーマに従って各スタッフが所属するチームでの打ち合わせが行われていた。このチームには全スタッフがどれかに所属している。あくまで自主的な取り組みであり、スタッフ自ら申請をして所属が決まる。現場レベルでの実際的なアイデアが検討され、スタッフも自分のアイデアが活かされることによってモチベーションを高めていた。
重要なことは、各チームから提示されるアクションは決定事項として全スタッフに周知されて、実行することを前提とされていることである。「それは出来ない。」という言葉は厳禁。もしやってみて出来ないことがあれば、どうして出来ないのか、どうすれば出来るのか、次善策を検討することを是とした。
確かに最初はチームから提示されるアクションに対して他のスタッフからあからさまな反論などもあった。例えば、売上増加チームからアップグレードワンモアセールス運動の提案があった。ハイグレードな客室が空いていれば、プラス3,000円でお客様にお勧めするという運動である。これに、フロントスタッフから様々な意見が出た。そもそも、お客様に高い客室を販売することはいかがなものか、チェックイン時間は大体決まっているためそのようなセールスをすることで混乱してしまう、等々のもっともな意見だった。千島支配人はチームとフロントスタッフそれぞれの意見を聞きながら、どうすればこの運動が実現できるのか、投げかけた。
それからしばらく悶々とした時間が過ぎた。そうした後に、早めのチェックインをするお客様でリピーターにお勧めしてはどうだろうかとのフロントスタッフから提案があった。それならば、当ホテルをよく利用してくださっているためアップグレードしてもらえる機会があるかもしれない。一度お勧めしてお断りされたお客様には顧客データに記載しておき、再度のお勧めはしない、と言ったルールも設けた。アップグレードする客室はルーム係とも連携しておき、いつでも販売できる状態にしておくこともすりあわせをした。そうして、実現したのであった。