コンシェルジュノート

2013/09/09 再建屋 道元

第四十六話「和典の豹変」

 硬い表情をしたままのオーナー家御曹司の佐郷和典は、道元と向き合っていた。

「経営改善プロジェクトチームですが、財前マネージャーがリーダーではうまく事が運びません。この前、少し改心したかと思えば、次の日はいつもの通りです。事なかれ主義のいつものマネージャーに逆戻りです。プロジェクトチームの活動もほとんど進んでいません。」

道元は、和典をじっと見ていた。発言する口元の奥底を覗くように、そして黒い瞳に隠された意思を見抜くように。

「確かにそうですね。チームの活動は遅いと言わざるを得ない。佐郷さんは、どうすれば良いと思いますか。」

「私はリーダーを変えるべきだと思います。」

「ほーっ。誰に変えるんですか。」

「私にです。」

「佐郷さんにですか。」

道元は、少し驚いた表情をした。オーナー家御曹司の和典が、ここまで自己主張するのは初めて見たからであった。これまで、ひっそりとオーナー家の看板を背中にしょって、ただひたすら営業に出て行く人間とは思えない変わりぶりであった。これも、プロジェクトチームが動き出した一つの効果かも知れない。そんな風にも思えた。

しかし、と道元はうつむいて立ち止まった。

「佐郷さん。佐郷さんの申し出は、非常に嬉しい。プロジェクトチームやホテル全体のことを考えて、自ら積極的に動こうとする姿勢は嬉しい。だが、財前マネージャーに任せた以上、もう少しやらせてみたい。佐郷さんも、これまで以上に財前を支えてやってくれないか。君は、売上向上チームのチームリーダーだ。まずは、このチーム活動を盛り上げてくれないか。」

 

道元は和典が、売上向上チームでどのような活動をしているのか知っていた。活動のレポートや成果物はきちんとしていた。具体的な取り組みが記載されており、実行すればそれなりの成果が上がりそうであった。

しかし、彼は一人でそのレポートを作成していた。他の2人のメンバーは業務が忙しいと言う言い訳をしており、和典は彼らを責めることなく自分一人で活動をしていたのだった。それほど情熱的ではない人間なのに、自分の負担を増やしてまでプロジェクトチームの活動を行うのか、道元は不思議に見ていた。

リーダーを買って出たのも、プロジェクトチームやホテル全体のことを考えているとも思えなかった。何となく隠された企みのようなものを和典には感じざるを得なかった。それが何か、道元には分からなかった。しかし、このタイミングでリーダーを変えるという申し出に同意すると、道元の思惑から外れてしまいそうな予感がした。だから、リーダーを彼に変えようとはしなかった。

 

 

 つづく