コンシェルジュノート

2013/06/04 再建屋 道元

第四十二話「行き交う想い」

プロジェクトチームのミーティングが開催されたのは、志村が財前に催促してから既に1週間がたった後であった。道元とその他のメンバーが席に座っているなか、財前が遅れて会議室に入ってきた。軽くお辞儀をした程度で、何事もなかったように所定の席に座った。

「それでは、第2回ミーティングを始めます。」

おもむろに、抑揚のない口調でしゃべり始めた。すぐ隣には志村が厳しい顔つきで座っていた。そして、今までこらえていた自身の想いが抑えきれずに零れ落ちた。

「ちょっと待ってください。どうしてこのミーティングの開催が遅れたのか、その理由をおっしゃってください。1回目のミーティングから既に1か月以上たっているんですよ。しかも、リーダー自ら遅れてくるなんてどうかしています。」

少し俯き加減で出来るだけ静かに、抑え込むように話した。

「まあ、みんなもそれぞれ担当の仕事が立て込んでいて忙しかったからだろう。経費削減とか何とかで人も少なくなっているし。確かに客室稼働率も料飲売上も減っているけども、それ以上に人が減って、負担は増えているだろう。だから、仕方がないんじゃないのかな。」

いまさら何を言っているんだと言わんばかりに、淡々とつぶやいた。志村以外のメンバーは何も言わずに俯いたまま、ただ事の成り行きを見守っているようだった。

しばらく沈黙が続いた。

「私は、このホテルが好きです。そして、このホテルを利用してくださるお客様が大好きです。そんなホテルが経営的に厳しい状況にあって、何とかしないといけないという時に、私たちは何もせずにただ今までと同じ毎日を過ごして良いのでしょうか。よく分からないけど、何かを変えていかないと本当にダメになってしまうんじゃないんでしょうか。」

やはり、何かが少しずつ零れ落ちるようであった。

 

「このホテルは、潰れたんですよ。」

メンバーは顔を上げて、一斉に道元を見つめた。

「皆さんは、この事実を知らない。今皆さんがこうしてこれまでと変わりなく仕事ができるのも、皆さんの知らないところで大変なご尽力をいただいた方々がいらっしゃるからなんです。」

道元は、各金融機関が協調して第二会社方式という手法を使って実質的に債権放棄したこと、その代わり旧経営陣が退任したこと、新たな株主として地域の再生ファンドが出資してくれたことをかみ砕きながら丁寧に説明した。

「財前さん。このホテルは今こういう状況に置かれているんだよ。分かりますか。」

財前は道元の眼差しが痛く避けようとしたが、避けきれない想いが打ち寄せてきた。その逆流する想いがからだ中を駆け巡るようであった。

「皆さん。ミーティング開催が遅れたこと、そして本日出席が遅れたことをお詫びいたします。申し訳ありませんでした。」

すっくと立ち上がり頭を垂れた。

つづく