コンシェルジュノート

2011/01/18 それでもホテルは生き続ける

第十九話「営業の見直し」

高槻部長は押し黙って、専門家の話を聞いていた。高槻部長にとっては当然にすんなり受け入れられる内容の話ではなかった。

「・・・ですから、W国際グランドホテルの営業は、旧態依然とした営業であり、かねてからの旧知の仲間への訪問に終始していたと言うことです。それを先導していたのは高槻部長であり、そのために新規顧客開拓にも遅れ、また組織的な営業に移行することが他社に比べても非常に遅れていたと言うことが、売上低迷の一つの要因です。」

「私は、足で稼いで人と人の縁を大切にした営業をしてきただけです。この人と人とのご縁が新たなお客様を作って、売上の増加につながってきたのです。」

高槻部長は、珍しくかしこまった物言いで言葉を返した。

「であれば、この10年間にわたる売上低下の要因は何ですか。」

専門家は、高槻部長の目をしっかりと捉えながら尋ねた。

「それは、当たり前でしょう。当ホテルのお客様は、比較的年配のこのエリアではアッパーなお客様です。これだけ年数が経つと自然と利用回数も減るし、場合によってはお亡くなりになっている方も増えているでしょうし。だからと言って、若い連中やインバウンドを積極的にとっていくには、ハード面でも不足していますし、そのようなサービスを提供することも出来ないんですよ。」

 「・・・。」

専門家は少し呆れ顔をあえてして見せた。

 「大体ですね。あなたみたいな外者に何が分かると言うんですか。ホテル営業のエの字も知らないんじゃないですか。外からあーだこーだ言うのは誰でも出来ますよ。それとも、あなたの言うことは、絶対的に正しいとでも言うのですか。そんなことがあるんだったら、その通りにしますよ。それで売上が上がるんだったら・・・。私だって、営業の責任者として売上低迷の責任は十分に感じているんです。でも、他のホテルは定期的にリノベーションをかけて客室のアップスケールを図っている、宴会場も今流行の個室風の小宴会場への改装している、そんなホテルが周りにごろごろしている中で、うちのホテルはどう戦っていけばよいと言うのですか。うちの強みは、これまでの地元顧客とのご縁だとすれば、それを活かしていくしかないじゃないですか。それのどこが悪いと言うんですか。そこまで仰るんであれば、ぜひ教えて頂きたい。」

 高槻部長は手にしていた事業調査報告書を丸めて、知らず知らずのうちにテーブルに打ちつけていた。顔も少し紅潮しているようであった。

最近降り始めた雪が少しずつであるが、積もり始めていた。部屋の外はどしーんとする冷気に埋もれているようであった。そして、少しの間があった後、高槻部長は、静かに話し始めた。

 「分かりました。私が責任を取れば良いんでしょう。もう、辞めさせて頂きます。」

 専門家は黙ったまま、高槻部長を見据えていた。そして、専門家は割に合わない老眼鏡を掛けて、手元のノートに「退職」と記入していた。

つづく