コンシェルジュノート

2010/12/17 それでもホテルは生き続ける

第四話「陽光」

「いらっしゃいませ、こんにちは。」

笑顔のフロントスタッフが、フロントカウンターから外に出てエントランスロビーにお見えになったお客様をお出迎えしていた。

「こんにちは。いつもありがとう。」

来館したばかりのお客様はスタッフに荷物を預けながら、チェックインをするためにカウンターへと歩いていった。

W国際グランドホテルでは、ベルボーイを置いていない。もちろん、規模が小さいシティホテルであることもあるのだが、フロントスタッフがカウンターを出てお客様と会話しながら接遇することが重要であるという、総支配人の森下憲の方針によるものであった。また、そうやってお客様との接点を増やしながらも、一人で何役もこなすことから人件費の変動費化を実現する狙いもあった。

そこに、気むずかしい顔をした坂本社長と相変わらず表情無い板東経理課長が揃ってホテルに戻ってきた。

「お帰りなさいませ。」

森下総支配人は深々と挨拶をしたが、坂本は無言のまま軽くうなずいただけで社長室へと戻っていった。

先ほどあおいろ銀行を訪問して聞いた岩城支店長の言葉を思い返していた。

「中小企業再生支援協議会に相談するって、どういう事なんだ。」

坂本は、自分の会社がどういう立場に置かれているのか、今後どうすればよいのか、全く見当もつかず途方に暮れていた。かと言って、誰かに相談できるわけもなかった。同行した経理部長の板東に相談しても、何の解決にもならないことは明白だった。

所在なく窓の外を見ていた。だんだんと日差しが強くなってきて、肌に当たる日光が痛く感じてくるようであった。W国際グランドホテルの目の前の桜並木は、青々とした葉で埋め尽くされており陽光に照らされていた。

とりあえず、支店長から預かった中小企業再生支援協議会のパンフレットを取り上げた。一言一句目に焼き付けながらゆっくりとページをめくった。

そこには、事業の将来性があるものの、財務上の問題を抱えている中小企業に対して経営相談や再生支援を行う公正中立な公的機関とあった。どうやらその相談には、まずは第一次段階として窓口相談があり、そこで必要であると判断されると第2次段階の再生計画の策定へと入るようであった。その再生計画は専門家の支援を得て策定し、関係金融機関との調整を行うと書いてあった。

「関係金融機関との調整って、どういう事なんだろう。今の借入金をどうにかしてくれるのだろうか。」

どうにも坂本には、この中小企業再生支援協議会という機関の想像がつかず、具体的に何が行われるのか、全く想像できなかった。

つづく