コンシェルジュノート

2010/10/12 コンサルタントコラム

所有と経営、運営の分離は、再生と承継に効果あり⑦

企業承継に於いても同様のスキームを作ることが考えられる。債務超過や過大な借入がない場合でも、今後の承継を考えるとこのまま現オーナー一族にホテル経営を任せておくにはリスクが高いと判断される場合が多くなっている。何故なら、代々ホテル経営に長ける一族がまれであることは、一般の中小企業の経営を見ても自明のことである。これまでは、それでも何とかやってこられたが、競争環境が激しくなり消費者の動向も変化していく中、ホテル経営の難易度はますます高くなっている。特にホテルは、資本集約的であり、労働集約的でもある産業であるため、日常のオペレーションの出来不出来がキャッシュフローの創出能力に大きく影響するため、債務償還能力に多大な影響を与えるのである。よって、経営・運営はその道のプロに任せて、オーナー一族は所有に徹するという切り分けが必要となるわけである。

企業再生においては次のような注意点がある。特に債権放棄が伴うような再生案件の場合は注意を要する。それは、株主責任および経営責任の取り方をどうするか、と言う点である。債権放棄が伴う再生案件においては100%減資、現経営者の退任、非事業用個人資産の売却などにより株主責任および経営責任を明確にすることが前提となる。しかし、所有・経営・運営の分離スキームにおいては、現経営者が所有(オーナー)として残ることになってしまう。これでは債権者の十分な理解を得られない場合がある。中小企業再生支援協議会が支援に入る場合などは、実際にこのような再生スキームを実行に移す際に、株主責任および経営責任が明確でないと言うことで再生スキームを見直さなければならなかった案件もあるようである。このような場合は、所有者を現経営者以外のパートナー(親族や信頼の置ける出資者など)に変更して、再生計画が確実に履行されることが見えてくる時点で、元オーナーへ大政奉還するなどの処置が考えられる。どのような再生スキームを採用するにしても、債権者の理解と金融庁の検査にも耐えうる客観的な正当性が必要となる。

これまで述べたように、所有・経営・運営の分離は、これからのホテル再生及び承継問題に対する重要なスキームの一つとなるし、再生や承継に関わらずともこの様な考え方を経営に取り込んでいかなければ、この先更に激化する競争に勝てなくなるだろう。そして、出来るだけ早めに所有・経営・運営を分離したスキームでの経営体制に移行し、環境の変化に対応出来た企業のみが生き残っていくのかもしれない。

終わり