コンシェルジュノート

2011/03/15 それでもホテルは生き続ける

第二十三話「最終バンクミーティング」

 記録的な猛暑を過ぎ、珍しく大雪も何度か降り積もる冬もようやく過ぎようとしていた。三寒四温の気配が感じられる季節となっていた。

 

 「経営者責任を明確にするため現経営者は退任、新たにターンアラウンドマネージャーを招聘し再建を図ります。また、経営者の私財及び非事業用資産の約2億円は売却して返済に回します。新会社に4億円の負債を引き継がせて、旧会社の7億円は資産整理後清算する第2会社方式により金融機関様には債権放棄をお願い致します。債権放棄額については残高プロラタでお願い致します。そして、ターンアラウンドマネージャーのもと事業の抜本的な再構築を行い、キャッシュフローを現状の20%増まで3年以内に向上させて、債務超過を5年以内に解消し債務償還年数も15年を目指すこととなります。」

 平山統括責任者は今回の再生スキームの概要について、相変わらず重いが良く通る声で淡々と説明した。

 「金融機関様で、ご質問のある方はいらっしゃいますか。」

 副統括責任者の牧は、若干緊張した面持ちで問いかけた。専門家の協力の下経営改善計画の骨子を作成してから、日数をかけて各金融機関を回り説明をし、金融機関の要望を聞いては骨子を修正することを繰り返してきた。その上での最終バンクミーティングを今日迎えているのだ。

 「メインバンクのあおいろ銀行様、いかがですか。」

 「経営者の経営責任や株主責任も明確になっており、ターンアラウンドマネージャーによって再建の方向性も担保されていると当行で捉えています。当行のスタンスとしては、W国際グランドホテルを支援していくことについては一貫して変わっておりません。ですので、この経営改善計画にて再建を進めていければと考えております。」

 融資部部長の柳原は、他行の担当者を見回しながらゆっくりと話した。側に座っているW国際グランドホテルを担当している岩城支店長は神妙な面持ちで大きく頷いていた。

 

 「あかいろ銀行の岡田と申します。ちょっと質問良いですか。現在社長様にお願いしている個人保証はどうなるのでしょうか。新しい経営者となる、なんて言うんですか、ターンアラウンド何とかという人が保証してくれるのでしょうか。」

 「ターンアラウンドマネージャーは個人保証は致しません。あくまで期間を限定して再建支援をする人ですから。現社長の奥様はホテル運営にこれからも携わって頂きますし、奥様の個人保証はそのままです。後は、今回の経営改善計画書そのものが再建を担保すると考えて頂ければと思います。」

 平山統括責任者は、間を空けずに即答した。

「そうですか・・・。」

あかいろ銀行の岡田は首をかしげながら、隣に座っている担当者となにやら小声で囁きあっていた。

 

「この短い会議で資料を全部見通すことは難しいでしょうから、各金融機関様におかれましてはご質問がありましたら、改めて協議会までご連絡ください。」

牧は、あかいろ銀行からの質問を打ち切って、バンクミーティングを終了させた。牧には、事前に個人保証の件についても了解を得ていたという認識があったため、今更どうしてこのような質問をするのかよく分からずに少し苛立っていた。

 

2会社方式

企業の中で収益性の高い事業を他の新会社等に分離して、不採算部門とともに過大な債務を整理する手法

会社分割が多く使用されるが、違法スレスレの運用も問題視されており、専門家による透明性高い運用が必要

※残高プロラタ

複数の債権者がいる場合に、その約定残高の比例配分に基づき返済額を決定する方法

※ターンアラウンドマネージャー

企業外部から期間を限定して、経営者として送り込まれる企業再生のプロ

※債務償還年数

有利子負債をキャッシュフローで除した数値。有利子負債を何年で償還できるかの目安。

つづく