コンシェルジュノート

2010/12/17 それでもホテルは生き続ける

第八話「覚悟」

 経理課長の板東は、あおいろ銀行とのやりとりや中小企業再生支援協議会の窓口相談の内容など、それまでの経緯も含めて淡々と報告していた。

取締役の坂本伊織、森下総支配人は板東の話を聞きながら、ずっと考え事をしているようだった。坂本取締役と森下総支配人は、社長と板東がW県中小企業再生支援協議会に相談に行ったことすらも今日初めて聞いたのだった。

「現状厳しいことは何となく分かっていたけど、もうどうしようもない状況なの。まだ、自分たちで出来ることはあるんじゃないの。」

坂本取締役は不安げに口を開いた。

「取締役。もうそんな状況じゃないんです。このまま行くと半年以内には資金ショートしますし、メインバンクのあおいろ銀行もこれ以上の支援は出来ないと言っています。自分たちでどうにかなる状況じゃないんです。」

「総支配人はどう考えているの。何とかして売上げを上げることは出来ないの。」

「短期的には難しいと思います。この外部環境の厳しさでは、すぐに売上げが上がるとは思えません。」

「じゃあ、経費を削るしかないじゃないの。」

「当ホテルは部門別会計で管理しております。無駄な経費は削減しております。これ以上の削減は直接的にサービスレベルを落とすことにつながってしまいます。」

「じゃあ、どうすればいいの。」

坂本取締役は吐き捨てるように言い捨てた。

重々しい沈黙が続いた後、板東が口を開いた。

 「社長。私は中小企業再生支援協議会というものがよく分かりませんでした。しかし、先日の打ち合わせで少しは分かったような気がします。具体的にどうなるか分からないのですが、彼らは企業再生のプロであることは間違いないと感じたのです。ホテルの現状を考えると、彼らのような再生のプロにお願いせざるを得ないのではないでしょうか。」

 長い沈黙の後、ずっとうつむいて話を聞いていた坂本は顔を上げた。

 「そうだな。それしかないだろう。ここは、再生支援協議会にお願いするしか。」

 

 社長の妻である坂本取締役は、これからどうなるのか分からない不安が先に立ち、しかしながら今の状況では遅かれ早かれ経営が立ちゆかないことも理解するように努めていた。社長が決断したんだから・・・。

 総支配人の森下も、自分ではどうしようもないことに内心苛立ちを感じていた。もっと早くにいろいろと手を打っていたらこのような状況にはならなかったのではないか。

 社長はホテルの経営についてはほとんど理解していないことも分かっていた自分が、もっとリーダーシップをとって改革を進めていれば、このような事態には陥らなかったのではないだろうか。しかし、自分の力ではこれ以上のことは出来ないことも残念ながら理解していた。

 中小企業再生支援協議会という機関がどういうものかはよく分からない。でも、W国際グランドホテルが生き残るのであれば・・・。

 様々な想いが交錯しながら、急遽開かれた会議はいつとも知れず終わりを告げた。

つづく