コンシェルジュノート

2016/09/13 再建屋 道元

第78話 『A店の課題とは』

道元は、旗艦店であるA店に来ていた。

「千島支配人。A店の最近の課題は何ですか。」

いつもふらっと訪れては、とりとめのない話をして他店の巡回に行ってしまう道
元であったが、今日はまじめな質問をしてきたことに少し驚きを感じざるを得な
かった。道元副社長もA店の業績を見ていれば、何も言えないだろう、逆に何か
あれば教えていただきたいぐらいの気持ちでいたためであった。

「えっ、最近の課題ですか。」

それほど何か考えるようなそぶりを見せずに、手元の帳票をぱらぱらとめくって
いた。

「客室稼働率もADRも比較的高水準で推移しておりますし、人件費率も低減され
ていますので、収益的にはさほど問題はないかと。これも的確なフォーキャスト
に基づいたイールドマネジメントがなされていることの証左だと考えています。
フロントマネージャーの河南さんがよく頑張っているからだと思います。」

「うん、そうだね。収益的には旗艦店にふさわしい数値であり、しっかりとした
マネジメントがなされていると私も思っている。一方、アンケート評価も85点以
上をキープしており、他店と比較しても遜色ないレベルだ。これだけ稼働が上が
っていると、どうしても顧客満足度は低くなりがちだが、サービス面でも大きな
問題はなさそうだ。」

そこで、少し話を止めてフロントの方を眺めた。河南マネージャーを筆頭に、フ
ロントスタッフが慌ただしく業務をこなしていた。その誰もが、フロントカウン
ター下のシステム端末と向き合っていた。

「しかし、彼らの接遇や対応を見ていてどうかね。何か感じるものはないかね。」

千島支配人は、改めてフロントスタッフの動きを目で追っていた。時には、うな
ずくような仕草をしながら、あるいは少し怪訝そうな顔をしてスタッフを見つめ
たり、その表情は落ち着かないものであった。

「どうだね。」

「お客様を向いていませんね。いや、向かせるような雰囲気じゃありませんね。」

「河南マネージャーは、いつもお客様の視点で物事を考えている。目の前の儲け
よりもね。だから、君とはいつも意見が合わない。」

いつも冷静な千島支配人は、若干の動揺に落ち着きがないようであった。

「もっと、表面に現れないお客様の奥底にある気持ちや感情を見るようにしてみ
たらどうだろう。君なら分かるはずだ。」

道元はそう言い残して、その場を立ち去ろうとした。

「もう一度リピート率をよく見ているといいよ。」