コンシェルジュノート

2015/08/11 再建屋 道元

第六十五話『もも銀行の決断』

メインバンクであるもも銀行の企業サポート部長の岡島孝平は、道元を花やしきに送り込んだ張本人であった。

 もともと岡島部長は、ある地域再生ファンドに部長として在籍しており、旅館の再生案件でターンアラウンドマネージャを探していることがあった。そのときに、あらゆるネットワークを活用して、適任となる人材を全国で探していた。
 そこで知り合ったのが道元であった。

 当時は、千葉県房総半島にある旅館の建て直しに入り込んだばかりで、タイミングが合わず、携わっていた案件に引き込むことができなかった。しかし、そのときに岡島部長が感じた道元の当たりの柔らかさと時折見せる芯の強さに相矛盾とした魅力を感じたのだった。それ以来、一度は一緒に仕事をしてみたいと思い続けていたのだった。

「道元さん。花やしきの状況はいかがですか。」

 岡島部長は道元を良く呼び出しては、花やしきの現状や道元の考え方を聞いていた。紅葉も始まり、道元が花やしきに来て3ヶ月ほど経っていた。

「花やしきには中間層によい人材がいます。彼らをもっと持ち上げて活かすことができれば、よい方向に変わると思います。」

「ほう。それは逆に言うと、上を変えなければ駄目ということでしょうか。」

 道元は、言葉にすることなく頷いた。

「そのためには、もう少々組織にくさびを打ち込む必要があります。いままでたまった膿やさびを落とすためには、組織全体を振動させて、それらをそぎ落とす必要があります。」

「というと。」

「今、経営改善委員会を設置して幹部と若手を中心に様々なことについて議論しています。それまでは、お互いの部署の現状や問題点について共有してきました。そこから、このままではいけないという小さな動きが少しずつ出てきました。そして、今ようやく改善について本音で言い合える雰囲気が醸成されてきたところです。」

「そして…。」

 道元は、窓ガラスから見える赤く染まった紅葉を少し見つめてから、狭く質素なもも銀行会津支店の会議室に目を戻した。

「どうしても、経営上層部を変えないとあの旅館は駄目になってしまいます。」

 先日岡島部長と話したことを道元は思い起こしていた。あれから、1ヶ月が経っていた。将来を期待していた切通支配人は解雇され、道元にもパワハラで何らかの処分を社長は考えている。このままでは、せっかく経営改善委員会で改善の機運が持ち上がってきたにも関わらず、またしぼんでしまう。今がこの旅館にとって最終のチャンスであった。

 この会津は、本格的な冬支度をしなければならない時期になっていた。会津の人々にとっては憂鬱で堪え忍ぶ時期がやってきていた。