コンシェルジュノート

2015/04/14 再建屋 道元

第六十三話『老舗旅館のパワハラ』

「道元さん。パワハラはまずいんじゃないでしょうか。福島の片田舎とはいえ、パワハラは現代において会社のコンプライアンスが問われるほどの重大な問題です。しかも、うちは、この会津の旅館としては非常に古い歴史も持っている有力な会社です。そんな旅館でパワハラがあったなんてことが世間に知れ渡ってしまうと、これこそ問題です。」

 どこか飄々としながらも奥底にねちっこさの感じる物言いで朝倉社長はしゃべり続けた。その隣には、しかめっ面の顔をしたまま社長の顔と道元の顔を代わる代わる見ている月野常務がいた。

「道元副社長。あなたは、先日スタッフの目の前で森重営業部長を怒鳴り散らしたらしいじゃないですか。それも、森重部長の言い訳も聞かず。周りにいたスタッフも、日頃温厚な道元副社長が突然怒鳴り散らしたことに、びっくりして、中には恐怖心を抱いたスタッフもいたようです。あの頑丈な森重部長もたいそう参っていましてね。あれから休みがちになっているんです。」

「何、森重部長の体調が悪いのか。」

 朝倉社長は休みがちになっていることを初めて知って素っ頓狂な声を出した。

「ええ、そうなんです。何があっても営業に出かけるやつが、今回だけは本当参ったようでして。」

 少し考え込むような仕草をして、朝倉社長はしばらく考え込んでいた。
 道元は、何も答えることなく微動だにせず朝倉社長と月野常務の話を聞いていた。反論する材料を考えることもなく、ただ聞いていた。

「道元さん。やはり、この問題に対しては何らかの処分を検討せざるを得ないようですね。近日中に検討します。」

 部外者を見下すような横柄な言い方をして朝倉社長は立ち去った。

 一方、以前女将から余計なことはしないでくれと言われた切通支配人は、この頃、常務である上田総支配人とは没交渉になっていた。上田総支配人が切通支配人を遠ざけているようであった。おそらく女将が上田総支配人に働きかけて、切通支配人に仕事をさせないように裏で動いていることは容易に想像ができた。しかし、切通支配人はそれに対して何のアクションもとることをしなかった。ただ、道元副社長に言われて部門間の壁を取り除くよう現場のスタッフと毎日コミュニケーションをとることに専念していた。

 そんな淡々とした切通支配人の姿を影で見ながら、女将の苛立ちはつのるばかりであった。そのたびに、上田総支配人を呼んでは叱責を繰り返していた。