コンシェルジュノート

2013/08/14 再建屋 道元

第四十五話「オーナー家御曹司としての和典」

 オーナー家御曹司の佐郷和典は、珍しく固い表情をしていた。当ホテルオーナー家の3代目である佐郷和典は、従来のおっとりとした、人の良さがにじみ出る感じがいかにも血筋の良い人間であることを示していた。

 

先代の社長である和典の父は、金融機関の支援を受けて債権放棄を受けた際に退任していた。また、株主責任を取って100%減資した上で、保証責任を取るため私有財産のほとんどを失っていた。

 

父は、2代目社長としてこのホテルの経営に携わってきた。確かに、自分が経営者にいた期間に債務が膨らんだかもしれない。しかし、新しいバジェットタイプのチェーンホテルが数多く進出してきたり、ゲストハウス風の洒落たウェディング施設も進出したり、ホテルを取り巻く環境はがらっと変わってしまった。

 

今までのように、この地に古くからあり知名度は抜群であったため、いわば黙ってもお客様が来てくれた時代とは全く様相が変わったのだ。だからこそ、リスクを取っても、莫大な設備投資をしなければ生き残っていけない。誰がなんと言おうと、金融機関から借りられるうちに借りて、設備投資をしなければならない。

そこで、約20億円をかけて客室を全室改装、宴会場も全面リニューアルし、ブライダル施設もホテルらしくないゲストハウス風な造作へと大きく変えた。客室は、そのほとんどを2つの客室を1室にして、25㎡から50㎡までの比較的広めの部屋にして、雰囲気もトラディショナルな感じを残しながらもモダンな感じへと変えた。

 

改装してしばらくは、客室稼働率もADR(平均客室単価)も大きく増加、婚礼受注件数もV字回復した。しかしながら、その勢いも長くは続かなかった。みるみるうちに稼働率は落ちていき、婚礼の失注件数も増えてしまった。その要因が追究しきれずに、手当たり次第割引クーポンを乱発、TVCMにも乗り出し広告宣伝費を増加させててこ入れを行った。だが、失ったお客様は決して戻っては来なかった。

 

 

和典は、父の想いや苦しみ、そして無念を一心に背負っている。周りの人間は皆そう思っていた。しかしその見方は、多くは裏切られるのだった。どうひいき目に見ても、和典には必死さが見えない、水の流れを変えるだけのパワーが感じられない。やっぱり、育ちの良いお坊ちゃんという評価に落ち着くのであった。

道元は、和典と話をしていると、やはりお坊ちゃんだという色めがねに惑わされることもままあったが、その心底にはしたたかな狙いが隠されていることを感じ始めていた。

 

  つづく