コンシェルジュノート

2013/07/09 再建屋 道元

第四十四話「潰したホテル」

弁護士がそのホテルに入り込んでは、様々な資料作成をしたり、それまでの経営状況を把握するためのインタビューが行われたり、債権者会議からの日々はあっという間であった。

何かの縁でそのホテルの社長になってから、最初の頃はその縁を恨んだ。どうして自分がこのような目に遭わなければならないのか、答えのない問いばかりが頭の中を交差した。道元は、ただ目の前のやるべき事だけに集中して仕事をしていた。

 

債権者からの冷たい視線にさらされる日々も過ぎ、ホテルに静寂が戻ってきた頃であった。ホテルをよく利用してもらっていたお客様であり、かつ食材の仕入業者の社長がホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいた。ロビーを歩いていた道元を見つけて、声をかけてきた。その会社にも大変なご迷惑をおかけしていた。恐らく売掛金の90%程度は貸し倒れになっていたはずであった。

道元は社長に向かって深々と頭を下げた。

 

「この度は本当に申し訳ありませんでした。」

 

「いやいや、道元さん。今日は別にその話で来たんじゃないんだ。」

 

道元は怪訝そうな顔をした。

 

「私はこのホテルが好きでね。昔からずっと利用しとった。なんだかよう分からんが、ふっと落ち着くんだよ。こうして、ラウンジでコーヒーを飲みながら外の風景を見ているとね。ある時に、社長が替わると聞いてね。そうして道元さんがおいでになった。それからしばらくして、これだろう。」

 

その社長は、自身の手を立ててはヨコに倒した。

 

「そりゃあ最初は、参ったよ。うちだってそんなに楽じゃないから。しかしね、こうなったのは自分のせいではないのに、誠実に対応している道元さんを見ているうちに、昔のこのホテルの良さが思い出されてね。

まあ、うちも困ったけど、このホテルを助けることが、それまでの恩返しかも知れないと思うようになってね。」

 

そう言って社長は、ロビー入り口に入ってきたお客様を目を細めて見つめた。

 

「ぜひ、頑張ってくれ。俺はあんたのホテルを応援するから。何とかして立て直してくれ。頼むよ。」

 

社長は、道元の手を強く握った。

 

 

『他はこれ我にあらず』

一人ひとり他人に譲ることのできない、かけがいのない人間であると同時に、その一人ひとりの仕事や分担を、他人に任せてはならない。全て修行と心得て過ごしていかなければならない。


道元